今もなお、僕のまま ~「朝彦と夜彦1987」再演感想~

<2020/11/11追記>

公演発表おめでとうございます!なお、このブログ(再演感想)にはネタバレが含まれます。ご注意ください。

<追記ここまで>

 

 

 

 

 

私はずっと自分の悲しみと空虚を癒してくれるからこの舞台が好きなんだなと思っていた。
それ自体間違いではない。フィクションで癒される悲しみは確かにあるから。

 

「朝彦と夜彦1987」
2019年8月6日~8月11日

 

いつかこの舞台がまた再演するとき、どうか見に行ってください。
あなたに眠れない夜があるなら、眩しく幼い青春が、たったふたりの巡り合わせが好きならば、永遠と刹那が同居する夏が好きなら、どうか何も読まずネタバレを知らず、見に行ってください。

 

 

 

 

 

whynot4696.hatenablog.com


初見1回でこの記憶力はすごくない? 現在戯曲は発売していますが、ストーリーについては大筋こちらで話してしまっています。

新書館│雑誌 雑誌詳細ページ | 小説ウィングス2018年夏No.100

戯曲が掲載されているのはこちらです…とおすすめしようと思ったら品切れだし他でも売ってなさそう…根気よく探せばどこかにあるとは思うので一応載せておきます。

 


舞台を観劇して、4年前の私と今の私はやはり違うし、当時ブログで取りこぼしてしまった感想もあるなぁと思っている。

特に夜彦が叫ぶ「聞けよ」の苦しさが好きだ。ブログになんで書かなかったんだろうと何回も思った。今まで一度もまともに話せなかった過去を初めて話すとき、上手く喋れもしないのに出来事が自分の一部すぎて、大切すぎて、願うような殴るような、雷鳴のようなセリフ。

「普段出版倫理や放送倫理の中にあると使えなくなる言葉を、人は舞台上でやたらと使うが舞台の上には倫理がなくてもいいという話なのか?」というセリフ。あるあるすぎて何度聞いても笑えるし、その後の「倫理はいいが、思いやりは大事だ。」という続きにはいつもハッとする。今回、妹ともこの舞台を観劇したのだが、妹が「いいセリフすぎる」と唸っていた。倫理はいいんだよ。思いやりが大事なんだ。私の中でもはや座右の銘みたくなっているが、妹もそうなったらしい。目の前のたったひとりに思いやりを持つべきなのだ。

また、この戯曲を手に入れたから何度も何度も読んでいるのに、生で見たからか受け取る情報がより鮮明になった。新しい発見を何度もする。
何チームも見て、夜彦が朝彦を好きなのは嘘をつかないからだとやっと気づいた。だから朝彦は約束を守りたがる。あの日、約束を守れなかったせいで「親友」であることを証明できないような苦しさを感じるチームもあった。約束は17歳夏にしたもの以外にも2つあることに気づいた。それが本物の夜彦とした約束かは、やはりチームによるのだが、別の約束を果たすことで親友をやり直すこともきっとできる。

 


チーム別感想

Dチーム
初っ端からDに触れたい。A・B・Cと順番に見たため、一番最後に見たチームだった。一番フラットな気持ちで見れたと思うが、本当に驚いた。
私は初演が終わってから、この戯曲を手に入れ何度も何度も読み返していた。時には音読することもあった。その時の私の頭の片隅にはいつも桑野さんの朝彦と法月さんの夜彦がいた。ただ、一度しか見ていないせいで、結果的に自分の中で作り上げた朝彦と夜彦がいた。

「そうだ、そう読むんだ」というのをまず思った。織部朝彦と高本夜彦は、私が作り上げた朝彦と夜彦と同じ場所に熱が込められる。同じ場所で言葉が速くなる。彼らは19歳と25歳。年齢でいえば一番幼いチームで、私が初演を見た21歳と一番近いからそう思うのだろうか。
そして、感情を込めるということと、魅せるということはこんなにも違うものなのか、と思った。
4チームもあると、しかもそれに芸歴や年齢差がプラスされるとどうしても実力差が出る。初日、Dチームは「読んでいた」。ずっと本を見ている。朗読劇なので、何の問題はないけれど読んでいることがはっきり分かった。ブロックごとにテンションが変わり流れが分断される。相手とのテンポが微妙に合わないこともある。ものすごく乱暴に言えばこのチームは完成度が高いとは言えなかった。でもその素直さに心を打たれた。
(ただ初日は食い入るように本に目を落としていたふたりが、翌日の二日目には本を見ている時間がずっと少なくなりその成長にも驚いた)

***

朝彦役の織部さんが19歳なのを知ったのは公演後だ。夜彦と年齢差を感じない、少女漫画に出てきそうな朝彦。健やかで、多分友達もいる。兄であり面倒見のいい普通の男の子だ。一方高本さん演じる夜彦はインキャだった。面倒な性格で可愛らしくなんだかんだ憎めない(彼女ができた時は相当嬉しかったんだろうな…)自意識過剰で、癖もある。
このふたりは4チームの中で一番イチャイチャしていた。(股間の件に関しては朝彦の記憶もあてにならないから)たぶんなんらかの理由で股間も見せている。この2人は性愛にならなくとも恋もしているし、愛もしている。愛し合っているのだなぁと思うのだ。
成績が落ちた朝彦がぶつくさと文句を言うシーンで夜彦は「おまえならどこへでも行けるさ」と言う、その声には憧れが混じっている。

朝彦がなぜ約束を守れなかったのか謝罪するときに、夜彦が「俺もだよ」と縋るように返す姿が優しい。夜彦はずっと不安で、ずっと誰かと分かり合いたかったのだ。この瞬間、ふたりはやっと出会う。はっきりと目が合う。このチームで一番泣いたのはこのシーンだった。
あとこのチームは幻想17歳夜彦と記憶17歳夜彦が一番乖離していて、朝彦にめちゃくちゃにキレた。おまえ………本当に夜彦のこと………好きなんだな……………まあ、実際それくらい夜彦は可愛らしかった。変な魅力のある。この2人はお互いに見つめ合えないほど、お互い好きで、恋と愛をしていて、だから両方生きている。

***
朝彦独白のあと夜彦の声が聞こえ、それに対して朝彦は不器用に涙を拭って歩き出すラストシーン。
ちゃんと17歳を消化して浄化して未来に生きていく。
約束を果たす。
過去を過去にして学校は共学になる。寂しいけれど、向こうにはもう未来がある。

浅ましいけれど、普通で傲慢で優しい朝彦は羨ましい。
やけにネガティブで自信はないけど、どこか可愛らしい夜彦は愛おしい。
ふたりは出会って、ゆっくりとハッピーエンドに向かう。優しい気持ちになれるチームでした。

 


Aチーム
ふたりとも40歳オーバーの朝夜。この舞台がどれくらいのキャパシティでやっているのか、どうすれば笑いが取れるのか、テンポ感、何が恐怖なのか、その全てが分かっているチームだった。何度も読んだのに「このセリフで笑わせられるんだ!」と驚いたのもある。前半テンポがよすぎて「このチームは演出家の顔が見える!」とも思った。そんなわけないけれど、一番演出家に口出されているのではとか、稽古期間が長かったんじゃないかと思った。まあ、要は圧倒的実力があった。

ヤンキー臭のする谷口朝彦。なんでこいつ勉強なんかを…?と思うけれど、小さい弟妹の面倒もよく見ていそうなので納得。30歳朝彦については一番ヌード写真集を化学準備室で読んでそうだ。そもそも化学準備室でヌード写真集を読んでいそうな大人を想像できなかったけれど、谷口朝彦を見てやっと出会えた。あっ、なるほど。。。
窪寺夜彦は相当偏屈なやつだった。本当に神経質で手に負えない。地団駄を踏んだときの音は心臓が冷えるほど痛ましい。
なのに、ある時はスッと顔から生気が消える。生きるに疲れ果ててしまった夜彦が瞬間現れる。神経質で気分屋で躁鬱の激しい厄介な友人、言葉通りの夜彦が実在していた。

そんなふたりの解釈はなぜだかひどく難解に思えた。これは私がふたりより年下だからそう思うのか。存在している、と思うのに、何を考えているのかよくわからない。
今回、全チームを見ていて間違いなく地獄だったなって思うのはCチームなのだが、Aチームも同様に地獄だったなと思う。しかもそれがうまく言語化できないのだ。
「小さな木の実」を歌うシーン。朝彦、正確には谷口さん演じるクラスメートの小学生が、とてもかったるそうに歌うのだ。このシーンで夜彦はそれこそ一生の傷を負うのに、そのクラスメートは非常に面倒くさそうに歌う。善意ですらない。この残酷な悲劇を知らずに歌うのだ。

後半に行くにつれ、夜彦を見ていられなくなる。「ドサリ」という音を聞いた瞬間、夜彦の酷く怯える表情は痛ましい。
そして朝彦は物語が進むにつれ、何故だかだんだん幼く、弱っていくように感じた。
約束をしたときの朝彦は特に印象的だった。朗らかなのだ。明るいのだ。あの夜彦を目の前に死の約束を、嬉しそうにする。そんな朝彦を全く考えたことがなさすぎて脳みそがバグを起こした。朝彦は本当に死ぬつもりだったのかな。いや、そのはずなんだ。死の恐怖を知らないからあんなふうに優しくできたのかな。どうなのかな。

本当に難解だった。難解なのに、言葉や感情は矢で射られたように鋭く真っすぐと私の元に届いてきた。
なんだったのかうまく言えない。苦しかった。苦しかった。怖かった。悲しかった。

 

Bチーム
びっくりのBチーム。バカのBチーム。いや朝彦が本当にバカだった。それが良かった。
さすがというか、この2人は声優さんということもあり、言葉がすっと入ってくる。当たり前なんだけどとにかく滑舌が良く、何よりキャラクターがはっきりしていた。ぶれない。矛盾を抱えるのが人間だと思うのでキャラがぶれる分には私は楽しいのだがこの2人はずっと同じキャラクターなのだ。だからこそこの物語を客観的に見ることができたし、一番現実離れした朝彦と夜彦だった。

何回も書くが、入江朝彦はバカだった。多分成績が夜彦より10番どころじゃなく下なのだろう。バカというか、無神経で精神が健康でがさつで真っすぐで、人の気持ちが分からないのだ。死にたいと言う言葉の悶着のあと、夜彦は「死にたいと思ったら30までは生きられない」と言う。これは夜彦にとってとても大切なルールであり、寂しいセリフなのだ。それに対して「また、嘘か?」という朝彦のセリフがある。Bチームびっくりした。本当にびっくりのBだった。「どうして嘘を言って俺を煙に巻くのだ」と言う声色なのだ。夜彦に怒るのだ、この朝彦は。自分には訳のわからない言い訳を使う夜彦を責めるのだ。17歳の入江朝彦はどこまでも無神経だった。しかし30歳になると不思議と教師感がある。なぜだか、生徒を心療内科に連れて行ったこともルボックちゃんを見たこともあるのだろうと思わされた。
一方、市川夜彦は影のある魅力的な男の子だった。多分モテる。そして朝彦とは違う意味で真っ直ぐで、純真なのだ。本当は死とは無縁だったはずの男の子が父のせいで死に感染していく。そして朝彦も真っ直ぐがゆえに夜彦が持つ死に感染していくのだ。

純真で汚れない魂がふたつ、死に怯えている。
17歳はそれに引力があり、強烈であるということを知らない。

 

Cチーム
何度も書くが私が初演で見たのは桑法ペアの1回のみだ。
だから初日のAチームでは桑野さんでない朝彦にびっくりした。3日目であるCチームは私の(便宜上の表現として)親である朝彦を見たときほっとした。そうだ、この朝彦だ。
だからこそ、近藤さんの夜彦にはびっくりした。

桑野さんの演技が好きだ。推しと言えるほど演技を見ているわけではないのだが、見に行く舞台に桑野さんがいると安心する。桑野さんの演技はいつもその人が実際にいるかのように、ただ存在している。まるで桑野さん自身がそういう性格であるかのように役を魅せてくれる。桑野朝彦に関して言えば、少しオタクっぽい雰囲気がある。面倒見が良く少しおとなしい性格。夜彦のせいで「お互い友達らしい友達もいない」と言うが、この朝彦はそもそも友達づくりがたぶん下手だ。ムーも読んでそうだし弟妹もいそう。そのせいで人に寄り添うのが得意で、なんだかちょっとかわいい朝彦だ。
そんな桑野朝彦と組み、話し、物語るのはいつだって法月さんの夜彦だった。一度しか見てない法月さんの演技はまるでセリフを歌うように話す。狂うことができず、1人の人間として死と戦っているように見えた。

この戯曲を手に入れてから、私はどんどんと夜彦に感情移入しまくっていたので、どこまでが法月さんでどこまでが自分の感情で作り上げた夜彦なのか正直言うと分からない。分からないけれど、ひとつ分かることは、近藤夜彦は絶対に「違う」ことだ。
近藤夜彦は初めから不気味だった。なんというか、気色悪いのだ。声は古めかしいディズニーのヴィランズのように気持ち悪い。変に身長が高く、言葉は全て投げるだけのように気持ちがこもらない。そのせいで初日は全く集中できなかった。何なんだこいつはとアンケートに文句も書いた。乱雑な演技に感じられて、お前は精神を病むことをずいぶんとフィクションとして描きすぎではないか?ということなどを思った。夜彦はもっと言葉に抑揚があるはずだとか、もっと繊細なはずだとか、もっと、もっと、死に怯えてるはずだとか、そんなことを考えた。
初日を終えて、この夜彦は私が勝手に思い描いた夜彦ではないのだということを思い知った。
この夜彦は怯えない。叫ぶ声は悲しみからくるそれではなく、怒声なのだ。「聞けよ」は切実な声ではなく脅しで、今更逃げられると思うのか?という色をしていた。そんな夜彦は止められない。だって「死ぬ」とか「死にたくない」とかそういうものではないんだもの。近藤夜彦はずっと死んでいる。父が死んだ日から、死を目撃してしまった日から死んでいるのだ。そのことに気づいてから二日目、私はおそろしく泣いた。
この夜彦があまりにも可哀想なのだ。本当に「見ているこちらが地獄」なのだ。

 

 

ラストについて※個人的解釈です

桑法ペア*1と言うくらいなので初演にも他チームがある。松松ペアと呼ばれる松島松田*2ペアだ。
初演後、感想を検索する中「何を見たらこんな感想になるのだ」というものをいくつも見かけた。それはよくよく前後のツイートを見ると彼ら彼女らが見ていたのが松松ペアであることが分かった。この感覚についてはエッセイ*3菅野彰さん(脚本)が綴っている。

エンディングについて章立てたのはこの話が強く関係している。そもそもこの戯曲にはエンディングが2パターンある。17夜彦が屋上から飛んだのか、飛んでないか。ラストの独白でどちらか曖昧になって終わるのだ。
大学の演劇サークルに所属していた妹にどう思ったか尋ねたとき「ラストの音楽やライトが明るく、飛んでいないエンディングとして演出されていると思った」と彼女は言った。今回4チーム全て同じ演出(音楽から捌ける方向まで全て同一)だ。元の戯曲は確かにゆっくり境界線がぼやけていくような不穏な演出で終わっている。
桑法ペア・松松ペアのときはこのエンディングがはっきり用意されていた、と思わされるくらいそれぞれのチームの演技の方向性が違っていた。*4 2チームだからそう感じるのか、演出家な色をつけたのかは分からない。それでも松松ペアは飛んでまうのだ。
まあ、詳しくはエッセイを読んでくれ~~~!!みんな読んでくれーーー!!!!!!

新書館│雑誌 雑誌詳細ページ | 小説ウィングス2016年冬No.90

何が言いたいかと言えば、Cチームは松松エンドだった。つまり、どうやっても、近藤夜彦が飛ぶのだ。
桑法エンド(飛ばない)と松松エンド(飛ぶ)を知っていたせいで、どのチームも夜彦が飛んだのか飛んでないのか注視しながら最初は観劇していた。一巡して、そこに注目しすぎると気が散ることに気が付いてやめた。どちらのエンディングが重要なわけではない。どんな朝彦とどんな夜彦がいるのか。そしてふたりの化学反応のほうが大切なのだ。

それでも近藤夜彦が飛ぶ。桑野朝彦の、優しく寄り添う力が、強く照らす力があっても飛んでしまう。夜彦は九つのあの日からずっと死んでいるから。
---そして、寄り添う力がある桑野朝彦が、絶対に飛んでしまう近藤夜彦と出会うとどうなるのか。
飛んでしまうのだ、朝彦も。
夜彦が30歳になった日に。
これがあまりにも悲しすぎて、必死に朝彦の表情を追った。せめてラスト一瞬でも笑ってくれたらばと思っていたのに笑わなかった。
ああ、この朝彦は30歳の夜彦の幻を見て、ついに諦めてしまうのだ。


この戯曲には冒頭、朝彦と夜彦が声を合わせるシーンがある。
「「たぶん、こいつの成績が俺より10番下なのだろう!」」
Cチームのふたりは面倒くさそうに愛おしそうに互いに声を合わせ互いを語る。男友達なのだ。最果ての汗臭いつまらん汚い男子校で、男同士で、以上でも以下でもないふたり。関係性の分かるあの瞬間に私はハッピーエンドを予感したのに、真逆だった。
「俺は夜彦が嫌いじゃなかった」と笑顔で桑野朝彦は語る。愛おしいから、飛んでしまう。

なあ、連れていかないでくれよ、夜彦。
本当は独りで死ぬはずだった夜彦。おまえは他者を必要としないほど死に怒れるのに。連れていかないでくれよ。
そう思うたび、夜彦が連れていくことを望んだわけでないのも分かった。望んだのは朝彦だ。寄り添い、誰よりも夜彦の気持ちを分かろうとした朝彦は気づいたら「「何か」でありたい」と夜彦を求めてしまっていた。


正直、Cチームが一番安牌だと思っていた。
この舞台を人に勧めるとき、どうしても桑法ペアを、つまり飛ばないエンドを見てほしくてCチームを勧めた。結果は真逆だった。
本当、よくこんなことが出来るな………
正気じゃないでしょ……………
桑野朝彦に絶対飛ぶ夜彦をあてると、こんなことになるんだな………………地獄じゃん………………

あまりに違いすぎて、何度も読んだはずの戯曲は違うふうに心に響いた。今まで気づかなかった欠片が目立つようになった。幻想17歳に「死にたい朝を遺したりしないか?」と言わせておいて朝彦が飛んでしまうのは「何か」でありたいからで、夜彦に一番影響を与えたものに朝彦はなろうとしているのだろう、とか。自分の家族構成を語る際、「ひとりで4人の子供を育てる母親」と言う朝彦は果たして両親がいるのだろうか?言葉のあやだろうか? とか。そんな二次創作に近い考えも浮かんだ。あるいは朝彦は実は教師になんかなっておらず、幻想の夜彦とともに精神病院で永遠と再演を繰り返しているのではないかとも思った。

寄り添う朝彦。九つのあの日からずっと死に続け、死に怒る可哀想な夜彦。本当に本当に、地獄だった。

 

Aチームについて夜彦は本当に飛んでしまうくらい辛いものだったし、たぶん飛んでしまっている。それでも朝彦は生きてゆく。17夜彦の幻と30夜彦の幻とともに「死にたい朝」を子供に遺さないために生き続け、贖罪を続けてゆく。

 

Bチームのエンディングは泣いてしまった。約束のシーンのとき、純真な魂たちが愛おしくて愛おしくて死んでほしくないと本気で思ったし、30夜彦が登場した瞬間、ああ、本当に良かったと泣いたのだ。死は怖かったよね、とふたりに語りかけながら泣いた。あと約束を破ったことを謝る件は幻のはずなのだが、このふたりは熱射病で倒れた夜彦との実際の会話のように思えた。

 

Dチームのラストは先述してしまったが、やはりハッピーエンドだ。死んでない=ハッピーエンドではないと思っているけど、涙を不器用にぬぐい30夜彦の元へ駆ける姿はハッピーエンドなのだ。過去が本当に過去になり、今へ駆け寄る瞬間が爽やかでエンディングに流れた「黄昏サラウンド」がよく似合った。

 

 

あとはふせったーで書いた4チーム所感まとめ。お酒に例えた。
Aチーム→アダルトチーム。関係性が一番言語化出来ず、とにかく情緒を乱されあとに引くチーム。酒で言うなら日本酒。難解だけど通がたどり着くのはこの味。
Bチーム→ドラマCD。口当たりよく、滑舌が良いため情報が綺麗に入っくる。純真な朝彦と夜彦。終わったあとは明るい気持ちになれる。酒で言うなら梅酒。重い話が苦手でも飲みやすい。
Cチーム→地獄of 地獄。ずっと苦しい。最果ての男子校臭が一番するし、解釈が二次創作になりやすいのでできれば2回目に見てほしい。地獄が好きな人にはめちゃくちゃオススメ。酒で言うならテキーラ。とにかく酔いたい人へ。
Dチーム→(個人的に)トゥルーエンド。トゥルーエンドで言ったらAチームもなのだが、Dのほうがわかりやすさがある。苦しいながらも希望がある。酒で言うならビール。一杯目、気持ちよく酔える。

 

 

はあ~~~~~~~長え!!!!!!!!!!
こんなにも各チーム感想が長くなるとは思わなかったので、個人的な今までの思い入れとか、感情的な感想は別記事に書こうと思う。
「朝彦と夜彦1987」が本当に好きだ。なぜこんなにも好きなのか。私にも恐怖で眠れない夜があるからだと、空虚としか呼べない悲しみがあるからだとずっと思っていた。少なくとも初演を見た当時の私にはそうとしか思えなかった。
再演の初日。今の私には違うふうに響いた。

この舞台を見てくれた、若手俳優のことも朝夜のことも何も知らないフォロワーさんが観劇後、私に連絡をくれた。彼女の言葉が今の私が感じたことそのままだったので、引用させてもらう。

「これはずっと「死にたい」の話なのかなって思ってたんですけど、最後まで見たら「生きたい」の話だったことに驚いて、生きようって思って劇場を出れる舞台でした」

 

 

 

 

 

 

 

 

夜彦へ。どのチームでもない、私がつくりあげた私の中に存在している夜彦へ。
私は「死にたい」の本懐は「生きたい」であると、今ようやく思う。
怖かったよね。悲しかったよね。悔しかったよね。夜彦。それでも生きていこうよ。
普通と呼べる30歳はきっとちゃんとくる。不安が君に優しくしてくれる日はくる。生きていつづけよう。君に生きつづけていてほしいよ。

 

 

 

 

 

*1:朝彦:桑野晃輔 夜彦:法月康平

*2:朝彦:松島庄汰 夜彦:松田凌

*3:菅野彰さんの観劇エッセイ「非常灯は消灯中」。初演の公演を書いてくれています。リンクは下記

*4:あくまで演技の方向性。見ていないからはっきり言えないけどたぶん演出は同一