掛け違えたボタンみたいに 〜アイドル短歌 単語・テーマ編〜

綴さん(来世はペンギンになりたい)と同じ単語、同じテーマで短歌を詠みました♡
※制限時間1時間

 

 

~同じ単語で短歌を詠もう編~

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【レモン】

まだ青いレモンはじける  今ここで始まる恋を嗅覚で知る (綴)

「かけますか?」「かけませんか?」愛される人だけ愛す レモンは気まま (風林)

 「同じ単語やテーマだからこそ、お互い辞書の中身の違いが面白くなりそうだよね」と言っていたけど、初っ端から見事に違って面白い。「レモン」は色、ビタミン、酸っぱさ、夏…いろいろできるなと思ったんですけど、綴さんの嗅覚チョイスは思い浮かばなかった。音でもなく光でもなく、嗅覚が先にくる恋。
 私が詠んだレモンの短歌はわりと最初のほうにできました。から揚げのレモン(のつもり)で詠んだんですが、「レモンは気まま」がお気に入り。「アイドルは愛せば両想いになれる」という思想があって、それは軽やかなものであると定義してみたかった。ていうかから揚げのレモンっていろんな意味を持たせられるから詠み易いな…


【挨拶】

「ただいま」をくれる誰かがあなたにもいたならきっと僕は嬉しい(綴)

おはよう 夜思うより朝思うものが恋だね おやすみなさい(風林)

 

 綴さんから「最初は「おかえり」にしてたけどギリギリで「ただいま」に変えた」とのコメントがあり、あらためて読むと確かにこれは「ただいま」しかないなと思わされる。楽しい。今回は縛りを持って詠んでいるけど、そもそもの大前提が「アイドル短歌」であるからこそ、「ただいま」で成立してる(アイドルが言われるのは「おかえり」じゃなくて「ただいま」だ)。とても楽しい。
 なんとなく「綴さんはおやすみをチョイスしそうだな…シゲ担だしな…」と思い、合わせたくて私は「おやすみなさい」をチョイスしたのですが見事に外れていました(笑)。最初の5音が思い浮かばないまま「夜思うより朝思うものが恋だね おやすみなさい」が先に出てきて、あまり考えられないまま時間もなくとりあえずで「おはよう」を選択しました。結果的にパラレルワールド的気味の悪さが出てきて良かったかなと思っています。
 詠んでいる風景も、チョイスしたワードも違うけど、同じ色味の短歌が出来上がったところも面白いなと感じてます。

 

【インモラル】

内側をひらいた君を読んだことインモラルだと思いませんか(綴)

行いが正しく立派な見てくれに似合ってしまった色 インモラル(風林)

 「内側をひらいた」まででもう大喜びしてしまった。ザ・綴さんの短歌。本人も「思いませんかって詠んだけどこれは聞いてない、決めつけてるぐらいの気持ち」と言っていてさらに喜んだ。ほぼ反語の「思いませんか」の強さがいい。「内側をひらく」と「インモラル」は決して同義ではないはずなのに、全体の強さと並べたことによって香りたつグロテスクさ。個人的にですが(個人的にですが…)相手を思考を知るということ、自分の思考を開示することというのは、時としていかがわしいことであると考えているのですごく良かったです。インモラル。
 あとこの77はかなり遊べるだろうから「インモラルだと思いませんか」固定で3首詠むとかやってほしいな…

 一方、私はたまにアイドルが歌う卑猥な歌詞を思いながら読みました。インモラル、実際に詠んでみるとなかなかに扱いが難しく、辞書、類語、言い換え、いろいろ調べてみました。品行方正の辞書見たら「行いが正しく立派」と書いてあって「もう5・7できたやんけ!!!!!!」とそのまま使いました。「見てくれ」や「色」もいろいろ言い換えてみたりしました。(「色」は最初「欲」だったけど、やっぱりこれは「色」のほうが良いね)


【ボタン】

押しボタン式になってる信号でいつまでも青を待っている君(綴)

 本当に好き。読んだときに浮かぶのは映像なのに、この「君」がどんな人間かが描けていて本当に綺麗。これはちょっと嫉妬してしまう。押せばいいのに押してしまわない、しまえない「君」が好きなんです。いや、これも結局「アイドル短歌」だからこそ輝くものだったりするんだよなあ。面白いなあ。


【手を振る(「手を振った」等でも可)】

本当はしたくないけど手を振った さよなら またね ここで会おうね(風林)

 「手を振る」という行為で真っ先にコンサートを思い出し、時間がなくてそのまま勢いで詠んだ。いつ行ってもコンサートは終わってほしくないし、でも別れなければいけないという、感情よりも先に行為をしなくてはいけないむなしさがあるんだよな…という気持ち。もうちょっとうまく詠みたいんだけど、時間がないからこそストレートな短歌になりました。

 

~同じテーマで短歌を詠もう編~

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【担降り】

始まりの日は覚えてて死んだ日が見当たらなくてでももう無い 愛 (風林)

君のこと後悔しない あんなにも愛してたこと愛されたこと(綴)

 この「担降り」は綴さんから提示されたテーマだったんですけど「おいおいおいそんなん…そんなんいくらだって…!」と興奮した。意味がありすぎて自分ではチョイスしないテーマなので楽しかった。
私の短歌はさほど悩まず詠めました。「好きが嫌いになる」なら区切りはあるだろうけど、ただ単に「好き」の終わりはないんじゃないかな、というところからスタートしてあとは言葉だけ組み立てた感じ。手前みそですが「死んだ日が見当たらなくて」は勢いのまま選んだわりに結構効いてるな…
 綴さんの短歌も良くて、ここら辺の考え方はお互い一致しているなと思う。確かに愛してたことも愛されたことも「あったこと」で、後悔しなくても降りてしまうことはある。言葉の中にある肯定が素敵。

 

【曇り】

曇りのち雨ののちのちのちのちの、のちのちいつかヒカリ差すから(風林)

パーカーが乾ききらない空模様  君のTシャツはどんな具合か(綴)

 とにかく「のち」が使いたかった。最初は曇りのち、雨ののちのち、雪のちのちのちの…みたいな続け方をしていたのですが、音が悪すぎて却下しました。文字として見てる分にはいいんですけどね。最終的にリズミカルな音にできて良かったです。時間があったら「雨」ももうちょっとこう…なんか…なんとかするんですけど(笑)。先に雲間から光が入る映像が頭の中で出来上がっていたので、そのオチに持っていくように詠みました。
 綴さんの短歌は「少し離れたところで生きている」という、短歌に含まれたものが分かりやすい!アイドルが東京に住んでいたとして、主人公は東京に絞れなくても関東ぐらいに住んでるという、書かれてはいない事実が浮かび上がるところがめちゃくちゃに上手い。「パーカーが乾ききらない空模様」のミクロさも上手い。まじでずっと上手い。

 

【欲望】

前ならえ右向け右に従えぬ それが悪かは君に任せる(風林)

欲望はぜんぶエゴだよ 守りたい、優しくしたい、笑ってほしい(綴)

 これはちょっと時間が掛かったやつかもしれない(1時間必死だったので記憶が薄い)。欲望もかなりテーマが広いから連作したいくらい。 綴さんと似た短歌を詠もうと思っていたんだけど、ふと「欲望って自分で制御できない」→「列からはみ出してしまう」という映像が浮かんでこの575ができました。「それが悪かは君に任せる」って責任放棄だから大嫌いなんですけど、欲望をコントロールしないということも責任放棄になんとなく重なったので、なんとなくです。1時間はまじで練る時間がない。
 綴さんの「欲望は全部エゴだよ」は同意見だし、綴りさんがこの思想なのも知っていたのでなんというか…全部…頷いちゃう。守りたいも優しくしたいも笑ってほしいも、あなたのためではなく自分の欲望であるという戒め。アイドルの話だ。

 

【セクシャル】

守りたい 背負いたい 奪いたい どこまでいっても君は男だ(風林)

 直前の欲望短歌で綴さんから「守りたい」というまったく同じワードが出ていたのが面白い!綴さんの「守りたい」は自分から出てくる欲望の言葉なのに対して、私は男の言葉と定義している。面白い!
 ただこれは非常に性格が悪い短歌ですね!時間がないから包むオブラートがなくてそのままになってしまった。人間は決して「男」や「女」の一言ではくくれない、誰しも男性性・女性性の両方が含まれている…という思想があるのですが、それでもどうしたって君から出てくる言葉は「男のそれ」だと思ってしまうという、差別的な短歌ですね。普段なら詠みませんね。
 「背負いたい」はもうちょっと変えたいな…「背負っていたい」「責任を負いたい」…うーん…いい表現を探してみます。

 

 

 

【蟹】

内臓も美味しくどうぞ  殻以外食べられるでしょ僕はアイドル(綴)

 ザ・綴さん短歌パート2。今回は「内臓」の時点で私は大喜びでした(笑)。「蟹」のテーマをチョイスしたのは私ですが、殻以外食べられるという視点が見事だな~~~これはまじで羨ましいな~~~…カニバリズム的グロテスクさ、卑猥さ、甘美さ。しかしどうしたって殻は食べられなくて、ならばその殻はなんの比喩か? ヒント的に落ちている「僕はアイドル」というラスト。同時にアイドルというのは「食べられる(外見や思想そのものが商売となったりする)人間である」とも読み取れたりする………短編小説かよ~~~~~~羨ましいな~~~~~~~~

 


【経緯・感想】

 二人でふわふわと「歌会したいね~」という話になり、オンライン通話でやること・同じテーマと単語で短歌を詠むということだけもともと決めていました。当日「いったん通話を切って制限時間1時間でやってみる?」「どれだけつくれるか分からないから、できた分だけ」と思いつきでやりました。
 通話を切った瞬間からノンストップで頭を回転させ、30分で3首くらいしかできなかったときはマジ絶望でしたね…何度か書きましたけど、本当に1つの表現を練る時間がないのでぱっと浮かんだワードをどんどんと組み立てていく…けども納得いかないものはいかなくて、でもそこで手が止まったら終わる…
 ここ最近で最も頭を使った1時間だったし、最も体感が短い1時間でした。勢いとはいえ、お互い8首出てきたのはすごい。1時間たったあとは通話を再開して順番に感想を言い合ったり、お互いの好きな短歌を並べたり短歌の作り方の話をしたり…短歌の話はできる人が限られているのでとても楽しかった。

 私が短歌と出会ったのは高校生のとき図書館にあった加藤千恵さんの「ハッピーアイスクリーム」でした。バイブルは「かんたん短歌の作り方」。これは確か高校生か大学生ぐらいのときに購入したのですが、私の短歌づくりだけでなく文章を書くときに意識することもあります。普段使わないような難しい言葉は使わない。表現はこれでいいのか何度も迷って突き詰める。できるだけ音は57577にする…今回は1時間という制限もあり、幾つかの決め事から外れることとなりましたが、結果的にいい方向に転ぶものもあったりしたのが意外でびっくりしました。
 前回は1週間くらい猶予を持たせて連歌(片方が上の句を詠み、それを受けて下の句を詠む)をしたのですが、「あれは楽だよね!」と言い合ったりした。半分は出来上がっているのはとても楽なんですよ…!いざというときは上の句に頼ればいいし、固定されているから本当にやりやすい!今回は1時間の制限という超縛りプレイでしたが、テーマ・単語という自由さにはちょうど良かったかもしれません。たぶん1週間あったらどんどんと作り変えて結果的に変なの詠んでた可能性はある(笑)。ただそのあとの脳みそが使いものにならなくなります。諸刃。

 

 

 綴さんが詠む短歌のファンなんですけど、31音に描かれてはいないのに含まれた意味というのにいつも圧倒されてしまう。通話しながら好きな短歌をお互い挙げたのですが、例えば

・僕たちは友達じゃない僕たちは出会ったこともないほど他人
・そのときはちゃんと言ってよ  いつ散ると知れぬ花でもないだろ君は
・愛してと願ったときに消える夢  許されるのは愛すことだけ

 アイドル短歌じゃなければきっと詠まない言葉選びがきれいすぎる。「出会ったほどもないほど」の「ほど」が超利いているし、「いつ散ると知れぬ花でもないだろ君は」は前半を際立たせている。ずっと「アイドル」と「ファン」の関係性は時折さみしいけれど、ファンになった私たちはそれを肯定せずにはいられない。綴さんの短歌は不思議とロマンティシズムを感じさせない。この関係性にむやみに酔ったりしない。羨ましい。めちゃくちゃに羨ましい。

 また歌会やりましょうね。やります!