世界の勝手だ。  WORLDISTA「世界」感想文

 

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お題「NEWSアルバム『WORLDISTA』レビュー」
 WORLDISTAより 加藤シゲアキ作詞作曲 「世界」感想文

 

初めて聞いたとき、震えるこころが怖かった。
「いったいあれはなんだったんだったのか」「か」がため息のようで、さみしさが加速した。
そう、この曲を聞いているときのこころは、寂しさに似たものを抱いた。
あなたと私に違う世界が宿っている。混じりあえないことも、つながれないことも、同じ地球に生きているようで、同じ場所にいないこともとっくに知っているのに、こころは嘆いた。

どんな概念を歌っているか、よく分かった。
なぜ私は「分かる」と思うのだろう。どうして私と私自身の曲だと思うのだろう。私たちは、自己と他者で、違う人間で、違う魂で、違う「世界」であるはずなのに、なぜ「あなたは私だ」と思ってしまうのだろう。

そして、そう思うのに、それが本当にそうなのか「そうでありたい」という欲望なのか、境目が分からなくなって、私のこころは行き場を失った。

 

求めていたのは愛じゃなかったか
求めていたのは夢じゃなかったか
求めていたのは魂じゃなかったか

愛や夢に、またこころが共鳴したのに、魂という言葉だけが少し大きくて、入りきらなかった。分からなかった。ああ、これはシゲが持っているシゲの感覚で、シゲ語なのだろう。私たちはやっぱり違ったのだとひとつ確認する。
分かったふりしてそれっぽく、この「魂」を考えて言い換えて結論づけることはとても簡単だ。でもいったんやめておこうと思った。こんな真っ直ぐな彼のこころの前でためらってしまう。まだ今は。

 


「世界」は、大切なことを、大事な、ほんとうを言おうとすると上手く言えなくなって黙ってしまう不器用なこころのようだった。
奥の奥の奥のこころというのは、色はなくて、重さをはかれず、つかめない。私だけが知っている私のこころの前ではどんな言葉も他者も、時に自分自身さえも無力だ。


それを描いて歌っているのは加藤シゲアキだ。加藤シゲアキ加藤シゲアキ加藤成亮)と、自分自身と恐ろしいほどに向き合う歌を、私はただ(イヤホン越しに/モニター越しに/観客席で/第四の壁の向こうで)聞いているだけのはずだった。
なのにラストに彼はこちらを向いた。急に目が合った。
愛と言いきれれば良かったのに。夢と言いきれれば良かったのに。魂が分かれば良かったのに。

何回目かまではそんなことを思って聞いた。

 

 

聞いているうちにいつしか映像や絵や記憶が浮かぶようになった。
刃が3本刺さった加藤シゲアキが見えた。ソード3のように。
青い鳥を見たような気がして、ただの空を眺め立ちつくす人が見えた。
故郷の映像が見えた。そこは色は淡く、私の故郷でも誰かの故郷でもなく、私が私の夢でつくった、私だけが知る場所だった。
走る人が見えた。一人、左に向かって走っているアニメーションだった。
立っている加藤シゲアキが座っている加藤シゲアキに向き合っている絵が見えた。吹き出しには「貴様が世界だ」と書いてある。「貴様が」と「だ」は上からぐちゃぐちゃに塗りつぶされていた。

シーツに小さく小さく縮こまる人間が見えた。彼かもしれないし、私かもしれない。大切だった誰かかもしれない。
幸せだったらいいのにと思った。
でも 幸せが なにか わからなかった

 


また聞いて聞いて聞いていたら、メロディーはイヤホンを外しても耳のそばにいるようになった。
なんとなく、この曲をずっと知っていたなという感覚になった。
あらすじは思い出せないし結末も思い出せない、でもなんとなく覚えている。探し出すにはヒントが少ないから、きっとこの先も見つけられないだろう、そんな何かを想った。それは本だったかもしれないし、映画や漫画やエッセイだったかもしれない。私の人生だったかしれない。

だって私が「世界」なのは知っていた。ずっと前から、半径数メートル程度しか感知できない五感と記憶だけの、ちっぽけな箱のようなもので世界ができていたのは知っていた。

そう。知っていた。
私が世界なら、それならば、世界をどうにでもできるのだなと、ふと、気が付いた。
私を不安にさせる世界も、私が私の力でどうにかできる。

そう思ったらちっぽけだと思っていた箱は開いた。
世界は私と私が見つめあう場所を囲む箱ではなかった。全てと向き合う、私のこころだ。
私はあらゆる全てを、どう見ても、どう感じても、どう切り取っても、いいのだ。

 

 

 

 

 

あと何回か聞いているうちに、またこの世界は変わるだろう。
あと何回か聞いたら、あなたを傷つけたくないと小さな箱に戻り、向き合うだろう。
そういうことを、ずっと繰り返すのだろう。

 

この曲には「結」がないのだな、と今思った。
それを幸せととるか不幸ととるかは
世界の勝手だ。