短歌を詠むときの脳みそ編

綴さんに誘われ相互題詠をしました。

 

短歌

短歌を詠むときの着眼点と、どんなふうに言葉を変えたりするのか可視化したいなとずっと思ってたので、一連の流れをまとめてみました。

ちなみにお題は「身体」です。アイドルと自分を考えるとき身体性の優先順位が低いので、全てアイドル短歌にするのは早々にあきらめました。綴さんは私の醜い…グロテスクな部分もわりと好んでいるようなので、性的なものも含めながら「身体」と向き合いました。もうひとつ、勝手に「よく使うワードをできるだけ使わない」という縛りを設けました。(後述します)

 

ちなみに私は普段
1、詠みたい思想・風景を決める
2、言葉を出す(57577はあまり気にしない)
3、入れ替えたりいじりまくって整える(たまに諦める)
4、完成!
(時折5、さらに修正する)
という流れです。よくあるやつ。たまに先に言葉が出てくるときもあります。

 

 

1、釈迦は手を差し伸べなくてズルいって本気で喚く人と生きてた

スタート:
Apple Musicでおすすめを聞いていたら「釈迦のてのひら」が流れてきて、ふと加藤シゲアキソロ曲「あやめ」、および芥川龍之介の『蜘蛛の糸』を連想した。

空から落ちる蜘蛛の糸んなもんいらねえ飛んでやらあ

加藤シゲアキ(NEWS) あやめ 歌詞 - 歌ネット

釈迦は手のひらを差し伸べなくて、蜘蛛の糸を落とすだけなのってすごくいい身分だよなって(相手は釈迦だよ?)思う。人間じゃないからか。

SUKISHA / 釈迦の手のひら (Buddha's Palm) - YouTube

 

【釈迦が差し出すのは手の平じゃなくてズルくね?】
とりあえず言葉を出してみる。もっと切実にしてあげたい。「手の平を差し出す」は言葉としてちょっとおかしいな…?

 ↓

【釈迦は手を差し出さなくてズルいって君は本気で喚いていたね】
愛おしい。しかし「君」は私がよく使うワード(以降「手癖ワード」と呼びます)なので、変えたい。77を検討します。

 ↓

【本気で喚く深夜二時半】
深夜二時半。これはほぼ手癖ワード。
【本気で喚きゃ生きていけるよ】
誰目線? これじゃまるで自分が釈迦だ。

 ↓

【地獄で喚く人が生き抜く】
だから君は生きられるよ、という思いもあったが、これじゃ相手(「人」)が他人過ぎて寂しい。もっと距離を近づけたい。

 ↓ 完成形

【釈迦は手を差し伸べなくてズルいって本気で喚く人と生きてた】
どんな人が好きだったの?って聞かれたときにこう答えられたら素敵だなあという感情を込め、この形に決めました。

 

 

2、ヒトの人らしいところは臍だから隠しちゃうけど解剖するね

 

スタート:
「身体」をテーマに短歌を詠むんだよね~と友達と雑談しているとき、「美術解剖学をやってたとき、『臍の上が一番人間らしくないからそこにメスを入れる』と聞いた」「人間が一番人間らしいところは臍」と言われ、何それめっちゃええやんと短歌にすることを決めました。

もうひとつは普段からよく自分が「はらわた」というワードを使うから。考えていることや心情、深いところを「はらわた」と呼んでいます。(周囲は「脳みそ」と呼ぶ人のほうが多い。どっちも使うけど、「脳みそ」は勝手に見られているイメージ、「はらわた」は自分の意識が残っている状態です。目が合います)

 


【へその上からゆっくり割いた】
まずは77。相手を解剖…および深いところに触れていくイメージ。

 ↓

【人間と分かっちゃったらできなくておへそのことをゆっくり隠す】
【人間と分かっちゃったらできなくて君のお臍をゆっくり隠す】
「できない」のは解剖なんだけど、伝わらない。また手癖ワード「君」登場

 ↓

【へその上らへんの肌に点線を】続かなかった
【ヒトが人らしくないのは臍の上と教えてそこをゆっくり裂いた】
悪くないけど、裂いたら殺しているみたいだ。
【ヒトの人らしいところは臍 君がまだ何者か確定できない】
はらわたや解剖関連のワードが入ってないので、伝わらない。
【ヒトの人らしいところは臍だから隠して割いて綺麗に分けた】
【ヒトの人らしいところは臍だから隠しつつもしっかり割いた】
やっぱり「解剖」を入れないと伝わらない。「綺麗に」も「しっかり」も余った音を埋めてるだけでもったいない。

 ↓ 完成形

【ヒトの人らしいところは臍だから隠しちゃうけど解剖するね】
途中で「ごめん」を入れようか迷ったけど、隠す時点でためらいは表現できているのでやめました。解剖までするほど興味があるくせに、人として見るには覚悟が足らない。欲望の短歌です。

 

 

3、色欲を空っぽにしてデザートに首の後ろの筋を頂く

スタート:
身体テーマならやっぱりカニバリズムっしょ! カニバリズムはたびたび愛情表現として出てくる。なのでどこが一番おいしいかな~ふくらはぎの後ろかな~と思っていたら、同友人に「私なら首の後ろの2本の筋。よく幼い弟のを食べてた」と言われ、説得力がちげえよ…と泣きました。

 

【仕方なくザクロで我慢してるけど首の後ろの筋を食べたい】
ザクロって私の中でいやらしさとグロテスクさの象徴なんですけど、調べたら人肉ってザクロの味がするらしい。そのまますぎるのでザクロは却下。

 ↓

【幸福なひと空にして眠らせた首の後ろの筋を頂く】
【幸福なヒト空にしてデザートに首の後ろの筋を頂く】
より情景を具体的にしました。どんなときに首の後ろの筋を食べたいだろう?と自分に問いかけてみる。
空(から)にして…空っぽにして。全部出してもらって。「眠らせた」は収まりが悪くデザートに変更。「食べたい」ではなく「頂く」にし、さらに仄暗くしました。イメージは深夜、雨、ベッドの上、モノクロ。「幸福なヒト」は行きずりの男をイメージしましたが、「ヒト」がさっきの短歌と被ってしまった。近い表現を探すも挫折(そもそも「幸福なヒト」が行きずりの男なことがイメージしづらい)(ひと→ヒトはより他人感を出したのですが、伝わらない)

 ↓ 完成形

【色欲を空っぽにしてデザートに首の後ろの筋を頂く】
素直に「色欲」まで短歌にすることで「空っぽ」の意味を補強。ことが全部終わったあと、相手はもう寝ているのでしょう(首の後ろだから)。さっきまで行きずりの人だったのに、無事デザートにしたいくら好きな人になりましたね。良かったです。

 

 

4、風邪のたび葱をきざんで飲み干せばあの日々だって細胞になる

スタート:
昔読んだ漫画に「家事をやらない彼氏が麦茶だけ自分で作ってて、元カノの影響だろうなと思う」という描写があり、強く印象に残っている。自作短歌の「気づいたら使い慣れてる口癖は特別だった君の痕跡」も同じで、もう今は一緒にいない人でも、好きじゃなくても、「影響を受けた部分」だけが残り、気づいたら自分のものとなっている…というのに人の過去とままならなさを感じて好きです。風邪で葱を食べるのは実話ですね。同居人に「なんで薬じゃなくて葱食べるの?」と聞かれてびっくりしました。今はもう葱じゃなくて薬飲んでます。

この推敲は長かったです。こね…こね………

 


【風邪には葱がいいと言われたことを思い出してしまうまだ治らない恋】
【ネギスープ風邪のたびに作ってて底にあるのは治らない恋】
とりあえず言葉を出す。「風邪」と「治らない」「恋」がかかっているのはいいけど57577に綺麗にまとめられず、いったん却下。【底】も記憶と葱にかかってるんだけどなあ…

 ↓ ここから地獄

【風邪を引く葱を刻むといいんだと】【ひきはじめにはネギがいいって言ってたね】【記憶の底に治らない恋】【風邪をひくたびにネギの刻んでて記憶の底に治らない恋】【喉風邪のたびに葱を刻んでて】
風邪に葱がいいと相手が言ったことと、もう終わっていること両方がなかなか綺麗に入らない

 ↓

【ネギスープ風邪のたびに思い出す呪いみたいに治らない恋】
【治らない恋だ葱をきざむたび喉にいいって呪いかけられた】
【喉風邪をひくたび葱をきざんでる記憶の底に治らない恋】
悪くない。手癖ワード「恋」から離れられないかと思い、さらに推敲。

 ↓

【喉風邪をひくたび葱をきざんでる記憶の底で君は得意げ】
【喉風邪をひくたび葱をきざんでる記憶の底に治らない日々】
ここでテーマが「身体」なことを思い出す(!!!)

 ↓

【ネギスープ風邪のたびに飲み干せばあの日々だって細胞になる】

 ↓ 完成形

【風邪のたび葱をきざんで飲み干せばあの日々だって細胞になる】
この二首で悩んだけど「ネギスープ」は文章が切れるので「風邪のたび~」を選びました。「呪い」「治らない」よりよっぽど力強い、過去を過去として生きていける短歌になって良かった。

 

 

5、空を飛ぶような感覚味わって明日へ移植される脳みそ

スタート:
テーマは身体→脳みそを詠みたい→脳みそが夢を見る?→→→明日の身体に移植されるときに見てる光景を「夢」って呼んでいるのかな~(なんでここにたどり着いたのかは覚えていない。何かしらの視点を変えようと努力していたような気がする)

【味わって明日に移植される脳みそ】とりあえず577
【眺めつつ明日に移植される脳みそ】同上何を味わっているんだろう?

 ↓

【終点の銀河遊泳味わって明日に移植される脳みそ】
終点の銀河遊泳、とは??? ここで人間がよく見る夢第一位は「空を飛ぶ」と知る。

 ↓ 完成形

【空を飛ぶような感覚味わって明日に移植される脳みそ】
素直な形にした。「明日へ移植される脳みそ」だけずっと変わらなかった。

 

 

6.ひとりでは足らないパズル持たされて産まれてきたから鍵を渡した

スタート:
アイドルはピースで、グループは枠である…という思想がずっとある。人間はパートナーや友達を作らなくとも生きていける。アイドルはソロでも活動はできる。でも誰かと共に生きてみること、グループを選ぶこと。それは自分の欠けた何かを埋める行為に近い…という考えから、他者を求める人間はそもそも欠けているのではないか。というふわふわしたところからスタートした。プラトンの人間球体論も思考の後ろ側にありました。

 

【欠けた体で産まれてきた】
最初に浮かんだワードだけど、これでは四肢が少ないイメージを持ってしまう、意図と違う言葉選びですね。余談だけどこういうマジョリティの傲慢さは出ないように気をつけてます。

 ↓

【パズルを埋めるため歪な心で産まれたんだよ】
ぴんとこない。何かが足らないこと≒パズル は悪くない。

 ↓
【最悪だひとりで完成できないパズルを埋めるため歪な心で産まれてしまった】
【ひとりでは足らないパズル持たされて産まれた マジか】
とりあえず言葉出しの時間。「ひとりでは足らないパズルを持たされて産まれてきた」という、自分ではどうにもならない感覚があって良い。神様最悪くらいな感情。じゃあそう産まれて、どうするのが一番最初の思考を出せるか。だからそばにいて、ひとりにしないで、あなたが埋めて、という切実さが欲しい。

 ↓ 完成形

【ひとりでは足らないパズル持たされて産まれてきたから鍵を渡した】
鍵を渡すことにしました。一緒に生きてほしいです。この短歌だけ明確に身体ワードがないけど、全体が身体という、四角でも丸でもない変な(私は人間の体は変だと思ってます)形を詠んでるのでOK出しました。


最後に短歌を並べてみる。
「身体」に対しての捉え方が如実でびっくりした。アイドルに限らず、そもそも身体の実感を普段持つことが出来ない、だから「相手」がいてようやくそのことに気付くんだなと思った。触れてるときしか自分の身体に気付けない。関係性の始まりも終わりも詠んでるけど、始まりを最後に持ってくあたりも手癖です。いろいろあったけどもう一回始めてみるところで終わる物語って良くない?「空を飛ぶ~」だけほかの違うので、起承転結の転くらいに当たる5首目に持ってきました。これも手癖、仲間はずれはそれくらいがいい味を出してくれる。

 

案出しの段階にはいたけど短歌にならなかったやつもメモに残ってました
→ 「宇宙人との恋は腕がニョキニョキ二本生えてて気持ち悪いと別れを告げられ終わった」
やっぱり人間の体って気持ち悪いなって思想が出ました。なんで腕って二本なんだろ…

 

 

 

 

たまに短歌ってどう詠むの?って聞かれるけど、考えて詠むだけです。特別なことしなくていいからインプットして、特別なやり方しなていいから詠んでいくだけ。(ここら辺の話は木下龍也さん著作「天才による凡人のための短歌教室」のほうが鮮明に描かれているので、ぜひ)

推敲してくときは、視点を変えてみる。猫を見てる自分を描くのか、猫から見た自分を描くのか、自分が言いたいことを相手に言わせるのか、相手はなんて思うのか、延々と繰り返してく。でも結局言いたいことが言えないこともごまんとある。「風邪をひく~」ももっと上手く言ったあげたいから、また同じテーマで詠んでしまうだろう。
そうやってずっともがける楽しい遊びが短歌なんだと思う。

 

手癖ワードを無しにしたのも遊びの一種です。正確に言おうとすればするほど、気づけば手癖で選んじゃう。悪くないけど自分の世界から脱出できない、もっと伝わる短歌になってほしい…もがく。

たまに自分が気持ちいいので、備忘録のような伝わらない短歌も定期的に詠むけど、でも結局伝わらないともったいない。

鮮明な感情や空間、思想をまさぐる。感情を撫でて、ぶつかる場所から輪郭をなぞって、捕まえられる言葉を探す。

それを何遍も繰り返していくのが楽しいから、短歌ってサイコー。