君が好きだってこと以外大した意味なんてないよ 【アイドル短歌まとめ2】

 

君が好きだからか?夜が少しだけ綺麗に見える 君は生きてる
 
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幸福でありますように よく眠りたらふく食べて僕を愛して  

 

「自担に対してひとつだけ叶うなら何を願う?」と友人に言われた。真っ先に浮かんだのは「健康」。最近彼の健康状況は身体も精神もかなり悪そうで心配になる。次に浮かんだのは「幸せでいること」。これは私のいつもの願い事だ。二番目は「アイドルでいること」で…と考えてみたがこの状況で言うにはどうにもありきたりで口を噤んだ。

なんだろう。彼と私の間に横たわる欲望。友人たちの回答を聞きながら自分のうちを探って、ひとつ思い出す。「結婚しても私生活の話をしてほしい」。結婚自体はしてもしなくてもどちらでもいい。そりゃ今すぐに結婚したら三日は寝込むだろうなと思うけど、本人が幸せならそれでいい。それでも叶うなら私生活の話はやめないでほしいと思う。朝起きて、洗濯がごみ捨てがどうだとか、生まれた子供の成長だとか話してほしい。それはもしかしたら今存在するアイドルコードに反してるかもしれないけどあなたが生きているという事実を、隠したり隠さなかったりする生活を、私と同じように人間であるという喜びを、知りたい。なんでもないことみたいに「奥さんが勧めてくれた柔軟剤が良くて」とか少し照れも交えながら話してみてほしい。今までもこれからも君と私は恋愛なんかすることはないからその席は誰が座ったっていいんだけど、あなたが教えてくれるはずだったものは奪われたくない。彼と私の間に横たわる欲望。私の欲望。


本当のことだけ答えて 朝起きて一番最初に何を思う?

 

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天国が人のためにあるように僕のために君がいる 要る

 

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今此処が夢かうつつか幻か こいつが愛か知る術もなく

 

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持ち物はひとつの愛だ 大丈夫ほら見えるでしょ? 明けの明星

 

ペガサスが渡る夜空も越えてくと呟いているきみは気高い  

―――テーマ「手越祐也」より2選  

 

 

一度だけ手越くんに祈ったことがある。ジャニーズ好きの友人たちと行った鳥貴族で、iPhoneを4人で囲んでTHE MUSIC DAYを再生しながら、胸の前で手を組んでいた。その日、手越くんは憧れのX JAPANの曲『紅』をソロで歌った。手越くんによく似合うきらびやかな衣装に、気合いが入っていることを象徴するようなカラーコンタクト。この曲を歌うことを発表したあとも、その前日も、なんだったら直前まで「ああ、楽しみだなあ」程度の気持ちだったのに、いざ始まるとなった瞬間に私はこのポーズをしていた。緊張したのだ。NEWSのライブに行って手越くんに祈ったことなんて今まで一度もなかった。なんらかの拍子でずれたリズムを、あるいは誰かの喉が不調になったとき、手越くんはいつもその圧倒的な歌唱力でNEWSのもとへ戻していた。手越くんがいれば安心とすら思っていた。太い太い幹のような強さで土台を支え、時にはハモやアレンジでNEWSの歌をいっそうに輝かせる。そんな手越くんが今日はひとりだった。ひとりで難易度の高い歌で戦う。友人たちも気づかない本当に一瞬、私に緊張が走り心臓が張り詰めた。
でも結局、杞憂だった。手越くんはいつもの手越くんで、多少苦しくなりながらもいつもと変わらないパフォーマンス力で全てを魅せる。今だっていつだって、手越くんのすごさというのは努力に裏付けられた自信とハッタリじゃない勇気だ。
あのとき祈れて良かったと思う。祈るほどの挑戦を手に入れてくれた手越くんが、誇らしかった。

 


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義務じゃなく成すべきことをしつづける僕らは愛に責任がある

 

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「推しは推せるときに推せ」とか「いつまでもいると思うな親と推し」って言葉が嫌い。大っ嫌い。最初に誰が言ったのかも分からず、誰かの「推し」に「何か」があったときにほぼ著作権フリー状態でバズって流れてくる。「推し」に「何か」があった人たちにそんなひどい言い方はあるかよ。教訓として大切にしたいの分かるし、私も一時期この言葉たちに突き動かされた時期はあったけど、結局気持ち悪い矛盾を感じてしまった。「推しは推せるときに推せ」っていつだよ。「いつまでもいると思うな親と推し」とかいつか終わるなんてみんな知ってるよ。「人生は一度きり」みたいな悲しい理想を思い出してしまう。自分を奮い立たせる勇気にするにはいいけど、僕らはもっと複雑な事情の中を泳いでる。後悔がいつだってどちらに転ぶか分からない。


………ここら辺でそんなに深い話ではなく、推してないなら推したほうがいいよ!行けるライブは行ったほうがいいよ♡みたいな話だと気づき始めた。推してる人間には関係の無い話だった。いや、むしろ推してる私たちにとってこの言葉は毒だ。人生を大なり小なり全うしようとしているのに大切な時期と大切なライブが被ったりしちゃう。いつまでもいない彼女彼らを愛しに行くことと気乗りはしないけどこなさなきゃいけない人生の要件、どちらの後悔が大きいか惑ってしまう。大人になった私は人生の要件だと言えるけど、幼い自分をどうやったら納得させられるだろう。いつまでもいてくれない君を想うことは恐怖で、でもそれに勝る瞬間をもたしてくれる。今を少し引き延ばせたらいいのに。自分が二人いたならいいのに。この好きが永遠だったらばいいのに。

 

人生は愛に対して長すぎる 恋は3年 今は愛だけ

 


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大切な嘘をつこう 重要な大事なことよ 一生好きよ


日向坂46を好きな友人がいる。その人は大学時代のバイト先の常連さんで、なんだかんだ今もたまに飲みに行く。私はジャニーズオタクで、彼も結構なオタクなので会うと最近の現場からお互いの「アイドル文化」の違いの話で盛り上がる。
あるとき、坂道系グループに所属していたアイドルが卒業後大きなミュージカルの舞台に立ったことを話した。

「アイドルとして好きだったからハードルが高くなって行かないんだよね」
「アイドルという肩書きがなくなったからもう好きじゃないってことですか?」
「そうかもしれない。もう違うなって」

反射的に「私以外にもそう思う人はいるんだ」と思った。そして、これは大変な秘密の話だとも思った。
アイドルという肩書きがなくなっても彼ら彼女らは人間なので人生がある。当然だ。アイドルでなくなってもその人はその人のままのはずだ。それでも応援することに躊躇する、というかやめてしまう。私はまだ好きなアイドルがアイドルをやめたことがないから言い切れるわけじゃないけど、それでも応援はやめてしまうだろうと思っていた。私はアイドルが好きだから。

何が変わるというのだろう。たかだか肩書きだろう。それでももしも彼がアイドルをやめてしまったなら、それ以外の職業を肩書きにしたらば、私はたぶん。
もし本人が目の前いたら「あなたが好きだ」と迷わずに言う。あなただから好き、具体的な癖だったり性格だったり、あるいはその人の長けているところを言うだろう。「アイドルだから好き」ということは明日からも秘密だ。


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利己的なものだよ 愛は僕ひとり贖うことはできないのだし

 

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他のひと愛して生きてゆけないと嘘に頷く君はやさしい

 

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頭の中にいつもいつも君がいる 考えている 好きかどうかを

 

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ルリビタキ、地球、サファイア、青い君、自ら溺れて君に遭難 

 

受け取った花の蜜・毒・棘 すべて呑んで生きてく 「愛は」「愛とは」

 ―――テーマ「加藤シゲアキ」より2選  

 

自担は加藤シゲアキです。
え?本当に?とたまに自分に思っている。私の周りにはたくさんのアイドルファンの人がいて、好きなグループなり自担がいる。そういう人たちと一緒にいて、初めて会う人には自己紹介のように好きなアイドルの名前を言う。「自担は加藤シゲアキです」えっ、と自分の中に小さく違和感を抱く。慣れない。みんなが誰かを好きなように私にも好きな人がいて、それが加藤さんだなんて全然、慣れない。慣れたことない。みんなの好きと私の好きが同じなのか、そもそも私は加藤さんが好きなのか? どこを? 顔はもちろん好きだけど、顔がきれいな人なんてたくさんいる。性格だろうか。泥臭いところだろうか。たまに人にずけずけというところが愛らしいのだろうか。性善説を信じているところだろうか。小説を書くほど言葉と自分に向き合っているところだろうか。真摯すぎるところだろうか。たまに寂しそうに人と隔てるところだろうか。コンサートでファンに対する言葉に「愛しているよ」を選ぶところだろうか。考えながら話しているときに瞳が小刻みに揺れているところだろうか。
分からないけど加藤さんを見るたび、ああこの人が好きだと思う。
結局、まだ慣れない。

 

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私より鼓動が速く駆け抜けた 好きの理由はたぶんそれだけ  

 

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  ―――テーマ「増田貴久」より3選 

重たくて少し暑くて不評なの それでも着たいのアイドルスーツ

 

増田貴久が分からない。増田さんのことを分かったことは今まで一度もなくて、たまにこぼれるものを拾って、見つめて、やっぱり分からないなと思うことを繰り返す。それは彼がアイドルという着ぐるみをまとっているだけの理由ではない。
NEWS担は増田さんを「アイドルらしい」という表現をする人が多い。もともとNEWS担じゃない私はこの発言が興味深く聞こえた。増田さんは自分の私生活をあまり見せない。増田貴久とアイドルまっすーは別のところに置いている(ように見える)。それが「アイドルらしい」のだ。それでもたまにこぼれる増田さんの生活臭こそが彼をよりアイドルたらしめているんじゃないかと思う。彼が理想とするアイドルを体現しようとしている姿は人間らしい。
増田さんを表現するなら、もっと別の…言葉を考えようと思ったけど、それすら出てこない。増田さんは言葉じゃない。例えるなら宇宙。魔法。漢字よりもひらがな。つかめない風。目に見えない電波。フィクション。まやかし。パラレルワールド。空の色が混ざる17時。

 

NEWSに詳しくなる前から増田さんの衣装が好きだった。ジャニーズに、もしかしたらほかのどこにもない、目を引くけど誰にも真似できないひとつを創る。
NEWSを好きになってから、増田さんの衣装がもっと好きになった。私が増田さんを理解できるのはこれだけだ。彼の作る衣装はたいてい、4人が並ぶと1人だけ少し外れて見える。「抜け」を作るだ(彼が意識しているかどうかは分からないが)。例えばNEVERLANDでの「さくらガール」のビビットピンクとモノクロの衣装。たいがい「抜け」を担当するのは小山さんが多いのだが、この衣装の「抜け」は手越くんに見える。ほか3人は差し色のビビットピンクの印象が強い中、上半身はモノクロシャツにリボン、ビビットピンクを下半身に持っていく。手越くんが好み、よく似合うロックでゴシックな雰囲気になる。手越くんを知っていなければ、服とメンバーを愛していなければできない組み合わせだ。増田さんは分からない。分からないけど増田さんの理論はあそこに詰まっている。


「月に風が起こるときだけ使えるの」言葉足らずは魔法使いだ

 

見せられる夢があります 見せられぬ夢もあります 僕はアイドル

 


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―――テーマ「小山慶一郎」より2選 

外面を良くして35を過ぎて深紅の薔薇に微笑む大人

 「小山さんは切り裂くとたぶん空洞」という言葉をもらったことがある。増田さんは切り裂くと宇宙で、シゲは切り裂くとはらわたが出てきそうで、手越くんは羽根かな、じゃあ小山さんは、といった猟奇ツイートをしていたときのことだ。「空洞」というワードをもらった瞬間、もうこの描写は動かせなくなった。小山慶一郎は切り裂くと空洞だ。空虚でも空っぽでもなく、空洞。

 NEWSの中で自分に近い人は?と聞かれたら手越くんか小山さんを答えるかなと思っていた時期があった。「分かる」と思う人たちはこの2人だったのだ。こういう考え方をする人なのだろうと。でもNEWSを知れば知るほど、小山さんが瞬間分からなくなることが増えた。この人は優しい人でいじられ役も平気で引き受けられて、人の長所をよく見つけてくれる、場の空気読みがうまい人。そんな色眼鏡からたまに小山さんはするりと抜け出す。「どうしてそっちを選ぶんだろう」と思う時間がいくつかあった。小山さんがevery.を降板したときにみんなが驚きと悲しみのツイートをする中、私はひっそりとびっくりしていた。私が考える小山さんと小山さんの行動が明確に違っていたからだ。(もちろん真意は分からないが私は小山さんの意思だと思っている)

 その後、歌に力を入れ始める小山さんを見てやっぱり驚きながらも、それならじゃあ今度はドラマとか出てくれないかなとひっそりと思っていた。なんならそういう路線でいくんだろうなというよく分からない確信をしていた。しっかりと外れていた。あれから。小山さんは「小山慶一郎の健者のBORDER30」という特番のMC、「バラいろダンディ」の隔週コメンテーター、国分太一さんの番組の準レギュラーの仕事を獲得している。え、すごい。今書きながら思ったけどすごい。every.降板の際の手紙に綴られていた「『news every.』の8年間で培った経験をこれからの人生に生かしていきたいと思います」という言葉を真っすぐに全うしている。

 私の先入観から抜け出す小山さんはたいがい真っすぐだ。嘘を言わないとか誠実であるとかそういうややこしいことじゃなくて、真っすぐ。本当は優しくて不器用な人だと思っていた。本当は愛され上手で狡猾な人なんだと思っていた。本当は場の空気がうますぎて流されてしまう人なのかと思っていた。私があれこれと考えてほんの少し言葉をいろんな解釈したりしている間に小山さんは答えの中にもういる。「どうして」と思う。どうして私が一生懸命考えて出そうとする答えの中に最初からここにいたみたいに座っているのだ。every.を降板したあの日「続けることでしか肯定はできないのに」と湧いた不安をこんなふうに裏切るのか。彼はずっと「伝える」を続けていたのか。

 小山さんの考え方は温かさがあるから分かると思うことが多い。でも真っすぐすぎて分からないことも増えた。思考回路が、途中式が見えない。だから小山さんは切り裂くと空洞。私の目には見えない何かが詰まっている、空洞。

 

「いま好きになって良かった」そのいまを積み重ねてるあなたを明日も

 


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愛すとはわけ隔てる行為だと知ってて言ってる君を愛する


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気付いたら僕の中に君がいて「俺もそう」だと言うからこまる

 

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ちょうど時期がそうだったのか、NEWSを好きになったからか、ここ最近自分の中にあった数々のルールが覆っていくのを感じている。

わざわざ言うことではないかもしれないと、あえて言わなかったこと。
どういう言葉を掛けるのが正解かわからなくて黙ったこと。
言うことがみっともないと思えて言わなかったこと。
綺麗すぎる言葉では届かないとわざとひねくれていたこと。

たぶん、もっとある。もっともっと形が変わっていく自分がたくさんいる。そのいくつもは変わろうと思って変わったわけじゃなかった。ああ、そうだなあと。今までの答え合わせのような瞬間があった。そのたびに持っていたルールをひとつずつ白紙に戻す。

無意識に自分は透明なのだろうと思っていた。だから私が言葉をかけなくても、透明でない誰かがなんとかしてくれるだろうと見逃した。そのくせ見栄っ張りで弱い自分や情けない自分を隠して逃げていた。私の中で意思や主張はこだまするのに吐き出さないように努めた。きっとみんなもそうなんだろうと他者を見つめることさえしなかった。そうじゃない他者を見てしまったら自分よりすごい人なんだと納得した。成り行きに任せ、偶然を期待した。
NEWSを好きになってから。NEWSを好きな友人も増えた。意思があって自分の言葉を持つ人が多かった。それでも他者は他者だと思おうとしたけど無理だった。意思を持った言葉は強く誰ひとり透明ではなかった。生きている人間を感じてその光は私の中にも差し込んだ。
いまだに、怖くはないのだろうかと思う。透明な生き方をずっとしてきたから、戸惑いのほうが大きい。

悲しみがあるときは言葉にしてもいいこと。
怒りがあるときは言葉にしてもいいこと。
心配だと思ったら心配だと伝えていいこと。
仕事がひとつ決まったら嬉しいとひとつひとつに言うこと。
何か更新があったら、それに対して感情を伝えること。

誰に強制されたわけでもない声がひしめきあう。嬉しいには嬉しいを言うとまた誰かが喜ぶこと。悲しみがあるときは悲しみを言って誰かに優しい言葉をかけてもらうこと。心配なときは心配してるよと伝えて癒してゆくこと。たくさんのコミュニケーションが明日には忘れてしまいそうな勢いで飛び交う。その全てに意味を持たせられなくてもいいんだ。その事実はまた私に勇気をもたらす。

結局、透明でありたかったのは私自身が誰かの刃になることが怖かったからだった。長い時間の中で今更気付いたのは私の素直さは意外と刃ほど鋭くないらしい。努力しなければきっとまた透明になってしまうから生まれた言葉をちゃんと選んでいきたい。ほんとうに大事なときに黙らないために。

 

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人生はRPG ラッキーな僕は勇者を愛するロール