架空担降りブログ「金魚が死んだ日」

 

架空担降りブログをフォロワーがやってるのを読んで(青を捨てる話。 - (仮))やりたかったので書きました。最初から最後まで架空の話です。

 

 

 

 

金魚が死んだ日


 沖田智哉くんから担降りします。
 今更、と自分でも思っています。一年くらい沖田くんの話はTwitterでもしていなくて、周りも察してくれたんですけど、半年ほど前に「担降りブログ書かないの?」とフォロワーに言われまして。それからずっと考えていたんだけど、つい先日のコンサート「SURPRISE!!!!!!」の公演に入ったときに自分がなぜ降りたかはっきりしたので、書くことにしました。


 「SURPRISE!!!!!!」は超良かったです。相変わらず彼らの音楽は好きだし、メンバーのコントコーナーも良かったし、鏡を使った演出は超好みでした。
沖田くんはラスト、メンバーカラーの青いさわやかな衣装であいさつをした。最近の彼のあいさつは昔よりずっと上手く話せてて、たぶんあらかじめ考えているんだろうなと思った。いや、彼自身の喋りがずっと上手になったからなのかもしれないけど。もう私には分からないけど。

 

 もともと彼を好きになったのは6年前の金曜10時のドラマ『今に見てろよ』がきっかけです。分かりやすい男子高校生の青春ものでした。あらためて見ると結構あらも目立つんだけど、当時高校生の私にとって、その世界はどうしようもないほど切実に写った。彼らの纏うけだるさ、将来に高い目標を持てない家庭環境、自信ばかりで口ばっかりで、大人に守られるのが嫌で、反発ばかりしていた彼らの夏。転校してきた女の子に主演の豊くんが恋をするという分かりやすい話が軸となっているけど、一口に言えない問題が散りばめられていて。あの夏のにおいが私の中で残っている。時に蚊取り線香のにおいが、時に花火の煙たさが、時には雨の湿気が、思い出の中にずっと漂い続けている。
 沖田くんが演じた谷村桔平は家は貧乏だけど明るくて、養護教諭に恋をする役でした。谷村桔平がフィーチャーされたのは3話で、母と恋する先生を重ねていたというのは結構同年代にはマザコンじゃん!みたいな受け方されてショックだった。父子家庭なんだから重ねたっていいだろ。
 ラスト先生に告白するシーンが、私はとにかく好きだった。かっこ悪いところも全部見せちゃって八つ当たりした先生に対して、申し訳なさを同居させながら告白をする。駄目だって分かりきっているのに、ほんの少しの希望がどうしても消せなくて。でも先生は同僚教員の山下(くそ暑苦しい筋肉男)と実は婚約してた。「今見て」が超好きなので脚本を持っているんですけど、そのシーンの谷村は無言なんですよ。でもドラマの谷村桔平は「そっか」って言うんです。納得したのか、わかったふりをしたのか、見合わない自分の子供らしさが嫌だったのか。ただ、「そっか」と答える。あそこに谷村桔平の持つ優しさが詰まっているようで好きなんですよね。「どうして」も「俺なんか」も「俺のほうが」も全部言わず、先生のことも自分の幼さもあらためて肯定しているようで、何度も何度も見た。切なくて悲しそうで、でも、なんだかうれしそうな谷村桔平のあの表情がどうしようもなく好き。


 だから沖田くんがまたドラマなりなんなり演技をやってくれるのを待っていたけど、結局今日までありませんでした。まあグループに6人いて3人すでにドラマ班だから沖田くんまでに回ってくるのは難しいのかな。谷村桔平があんなに素晴らしかったんだからバランスとか気にせずチャレンジしてほしかったけど、一番バランスを気にしているのは沖田くん自身でした。いろんなことにチャレンジして、今では食レポジャニーズって肩書きがつきました。別にグルメなわけではない(と本人も言っている)けど、面白さと表現力を兼ね合わせたコメントはどの番組でも本当に評判がいい。おいしいものだけじゃなくてなぜかゲテモノの食レポもしていたり、食レポにこんなに幅があるとは私も知りませんでした。
 正直に言えば、知りたくなかったな。自分のキャラクターを探して、一度食レポが面白かったという評判を目にしたあなたは頑張って、その枠でちょくちょく呼ばれたり、ジャニーズ事務所かどうかにくくらずグルメなタレントさんと仲良くなってみたり。この道だ!となったのだろうし、実際今ではほかにないオンリーワンのキャラクターになりました。同時にバラエティー慣れもしたし、コメントも上手になりました。

 

 でもコメントが上手じゃないあなたも、大好きでした。今はもう言われなくなったけど、私が好きになった当時はその発言ですぐ炎上していました。まあ炎上というほどではないけど、いろんなふうに取られやすい言葉を使ってしまって、それがファンや外野によって歪められるという光景を何度も何度も目にしました。不器用で真っすぐで、ありのままでありたいあなたは5年前初のドーム公演で「本当はこんなところにくるはずじゃなかったのにね」と言いました。もともとはアイドルを目指すつもりはなくてパイロットになりたかったのに姉がジャニーズに応募してしまった沖田くん。やめようと思えばやめられたのに気づいたらデビューして、ずるずるとここまできてしまった沖田くん。あの日は素直に「東京ドームで公演をやれるようなアイドルになったことに驚いている」ということを言いたかったはずなのに、見事に悪い言葉選びをしてしまった沖田くん。
 メンバーの湊くんに「バカとは話したくない」と冠バラエティーのクイズコーナー中に言った沖田くんもプチ炎上しましたね。湊くんは自分だけ中卒なこと(正確には高校中退だけど)を引き目に感じているとちょうど同じころの雑誌等で言っていたので、湊くんファンの怒りを見事に買ってしまった沖田くん。ちょっとした冗談のつもりだったのにね。良くない言葉選びだったね。
 今ぱっと思い浮かばないだけで、ジェンダー観も結構危うかったりした。プライドが高いせいもあり、時折人を馬鹿にしたような冗談が冗談に聞こえづらい人でもあった。ただ反省だけは真面目にしていて、あとからJwebの連載で分かりづらいフォローを入れるんだけど、その回数が多すぎてあきれる人も多かったように思う。何もかもが、へたくそな人でした。ただ、私はその不器用さが愛おしくて、その分かりづらいフォローから愛されたいという人間のどうしようもない欲がうかがえて、好きでした。


 沖田くんのソロの中で一番好きだったのは3年前の「Goldfish」です。この曲については何度も語っている。金魚の歌。白・赤・金の柔らかい布をまとって儚く舞う。メンバーカラーは青だけど、あなたには赤が似合うとずっと思っています。
 水槽の中の金魚が、海を願う。歌詞には「死滅回遊」というワードも出てきます。死滅回遊とは回遊性を持たない魚が本来の分布域ではない地方までいってしまい、その場所で死んでしまうこと。でもそれは無駄な死ではなく、場合によってはその地域で定着する可能性もある。歌詞からも、自分の新しく生きる場所を探すために泳いでみたいのだということが分かる。でも金魚は淡水魚で、そもそも海では生きられない。だからこの曲は金魚が「死んだ」か「死ななかった」かという解釈でよく分かれます。
 個人的には「死んだ」のだとずっと思っています。コンサートで最後に倒れる沖田くんのダンスは死の暗喩に見えた。なにより、だから水槽でもいいじゃないか。かなうだけじゃなく、夢は夢のままここで見られる景色だってあるじゃないかと考えているからです。当時のラジオや雑誌のインタビューは追っていたけど、沖田くんは「どちらとも取れるように作った、でも自分の中で答えはある」とだけ言っていました。私の答えはこうだけど、実際はどうでしたか。できない答え合わせはさみしいです。

 そのあとすぐに、雑誌「ハナコ」で連載が決まって。今でもやっているけどあの連載は大好きです。タイトルがソロから取って「金魚が見た街並み」なところも良いけど、酒蔵さんや和紙のお店、チョコレートのお店など、お店のセレクトが毎回沖田くんが持つ妙な哀愁にマッチしている。「今見て」のときに彼に感じていた寂しさと愛おしさが、言葉にはどうしたってできない切なさがこの連載の写真から漂う。金魚、夕暮れ、雨、アジサイ。沖田くんはそういったものとよく似合います。
 けれど、最近ファンになった人にそう言っても、たぶん「えっ?」って返ってくる。最近の沖田くんはバラエティー慣れしたこともあってどちらかと言えば明るいイメージになっていっている。いつもいつも漏れていたプライドの高さや不器用さはなくなっていった。人見知りだったはずのあなたが、食レポのためにアポ取りをしていって、まるで初めての人が怖くなくなっていった。

 


 ちょうど一年前の「DESIRE」コンサートで、担降りすることを決めました。なぜ降りたかはっきりしてないと冒頭で書きましたが、明確な区切りはこのときだった。
 「DESIRE」コンはオーラスに入れました。そのときもやはりメンバーカラーの青に身を包んで、挨拶のとき、滅多にファンの前で泣かない沖田くんの瞳は潤んでいました。

えー、今日はありがとうございました。(中略)すごいね、今、楽しいんです。だから…すいません。

 それまで流暢に話していた沖田くんは急に言葉に詰まった。ファンが沖田くんの名前を叫んで、沖田くんは少し俯く。

なんか最近、本当に楽しいんです。昔、よく見てた夢があって。もしもの夢です。ifストーリーっていうか、あの…俺がアイドルじゃなかったら、ジャニーズじゃなかったら、このグループじゃなかったら、いろんなパターンがあるんですけど。大学に入ってなかったらとか。多分俺の中にいろんな…その…後悔とかが、あったんだと思います。…後悔じゃないか、憧れですね。

 起きてから、もしもあのときこうしていたらってことを考えて。昔はもしもが羨ましかったんですけど、だんだん今がいいなって。このグループでアイドルやってる俺、超楽しいな、好きだなって思うんすよ。本当に今が好きです。今の俺のほうが好きです。昔はマジで卑屈だったし、全然、ごめん、嫌いだったけど。…なんだっけ笑 だからそういう今がこれからも続けばいいなと思うし、続けるからついてきてください。本日はどうもありがとうございました。

 時折、足元を見て、左手で服の裾をさする沖田くん。用意していた言葉ではなくこの時間で紡いでるものなんだなと言うことが分かった。周りのファンがすすり泣いてる中、妙に自分だけ冷静だった。帰ったあともこの挨拶がずっと心の中に残って、レギュラー番組が見られなくなった。雑誌も買わなくなったし、Jwebも見なくなった。もう無理なんだなって思って、Twitterのアカウントも移行した。

 いろんな人がね、「降りたの?」って聞くんですよ。まあ私もみんなだったら同じように聞いてたと思うんだけど。一度も「担降り」って言葉は自ら使わなかったけど、そう聞かれるとそうとしか答えようがなかった。その言葉を肯定するたび、自分の中の何かか少しずつ少しずつ削られていった。「なんで」には「分からない」と答えていました。実際そのときは本当に理由が分からなかったから。

 そうやって距離を置いてから行った先日の「SURPRISE!!!!!!」コンで久々に沖田くんを見たら、ものすごくかっこよくてびっくりした。汚いものに一度も触れたことなんてなさそうなきれいな顔、少し不安定だけどよく伸びる高い歌声、しなやかに魅せるダンス、笑うと眉が下がるところ。全部知ってて、全部好きなのに、私の好きな人はもういなかった。1年掛けて分かったことはそれだけでした。

 沖田くんが嫌いだと言った沖田くんが大好きだった。 卑屈で、プライドが邪魔してバラエティーとかでいじられキャラになれなくて、かといって喋りがうまいわけでもない下手くそな沖田くんが好きだった。グループの中で歌といったら世登くんだけど、沖田くんも歌が好きな人で作詞作曲ができる人で。 あの高くてきれいな声でカバーした安藤裕子さん『のうぜんかつら』が大好きだった。あのまま歌に力を入れていく沖田くんも見てみたかった。ドラマ班になる沖田くんを見てみたかった。何度も危うい発言をして、悪気はなくて素直に反省する沖田くんをずっと見ていたかった。世間的に認知度が低かったって別によかった。キャラクターなんてなくてもよかった。儚くて切なくて寂しそうな雰囲気が似合う、まだ何者にもなかった沖田くんが、大好きだった。
 でも気づいたら、私が好きな沖田くんは選ばなかったifストーリーになっていた。こうなればいいな、ああなればいいなと思っていた未来はもう描けなくなって、私は過去のことばかり考えるようになった。変わったのは私の方だったのかな。

 

 あの挨拶で言った、過去の自分が嫌いだという言葉の中になんで「ごめん」が入ったのかずっと考えている。過去の自分が好きだった人に対する「ごめん」なのか、そういう自分だったことに対する「ごめん」なのか、単純に話が長くなったことに対する「ごめん」なのか。ずっと考えてる。過去の自分が好きだった人に対する「ごめん」だったらどうしようと考えている。「ごめん」とか言わないでよ。謝るような過去にしないでよ。私は君が好きだったんだよ。過去の君は嫌うほど駄目な人じゃなかったよ。たったひとりの、愛おしい人だったんだよ。

 

 

 

 

 

 

 最近になって「Goldfish」の金魚が「死ななかった」という解釈が急に分かるようになりました。水槽から旅立って、死ぬかもしれないのに回遊を続けて新しい地に定着するという解釈が今の沖田くんと重なるんだと思う。沖田くんは、死ななかった。でも私の金魚は、無理で、やっぱり海で生きるなんて夢の話で。水槽はもう空っぽになっていた。君の金魚は出ていって、私の金魚は死んで。だから担降りをするしかなかった。

 


 大好きだったな。本当に本当に大好きだったな。私が好きなあなたは死んじゃったけど、誰が悪いという話でもなくて気がついたら道はたがえていた。でも君はもう私の一部なんだよ。君が昔のインタビューで言っていた「生まれたからには何か意味があると思っている」「その意味を探しながら生きる時間にも意味がある」という言葉が私の言葉になったように。考え方を、辛い時間の乗り越え方を、生きる意味を、君はくれたんだよ。

 

 

 

 もう全部書いたかな。これからの沖田くんを自担と言うのは無理だけど、私は絶対そのことを謝ったりしない。沖田くんが愛せなかった過去は、私にとってはたったひとつの大切な思い出だった。ずっと覚えている。いつか、沖田くんもあの過去を愛してくれたならいいな。そうやって私の道と沖田くんの道が少しだけ重なればいいな。私が今の沖田くんを愛せないんだから、わがままかな。

 

 大好きだったよ。 ありがとう。これからもたくさん愛されてね。今の君を愛せる人と両想いになってね。どんどん今と未来を好きになってね。あぁ、書いてると謝りたくなるな。沖田くんもこんな気持ちだったのかな。私も海を愛してみたかったな。